日本のコーチングビジネスは発展途上

世界のコーチング市場は成長をつづけています。国際的調査会社IBISWorldのレポートによると、米国における2019年のコーチング市場は約150憶ドル(1兆6000憶円)。世界全体では、おそらくその2.5倍~3倍程度と推定されます。日本国内には正確なデータがありませんが、研修事業などの動向から考えると、米国の数パーセント未満といったところだと思われます。

これはエグゼクティブや管理職が「自分にコーチをつける」という選択が、まだ十分に認知されていないことも一因でしょう。しかし20年前、10年前に比べれば、徐々に広がっているのも事実です。

コーチング市場を牽引するのは、世界でも日本でもビジネス領域です。日本では上司と部下の1on1コミュニケーションへの注目、コロナ禍のリモートワーク支援などの背景から、ますますコーチングへの関心は高まっています。

不透明な時代のリーダーシップ開発や、労働人口の減少傾向を見据えた多様な人材の確保と育成、それを支えるエンゲージメント(働く人々と組織の一体感)の醸成など、様々な観点からコーチングの活用が期待されています。

医療現場や教育現場などに入って、医師や看護師、教師などをサポートしているコーチもいます。また家族間のコミュニケーションや関係性に関わるコーチ、ティーンエージャー向けのコーチングを提供するコーチなど、コーチングの基盤をしっかりと身につければ応用範囲は広がります。

コロナ禍で働き方が変わってきたことも、コーチングへの関心を高める契機となっているようです。リモートワークの増加によって人と隔絶されるなか、安心で安全な関係にもとづく本音のコミュニケーション、適切な自己管理の支援を望む人が多いからでしょう。

プロフェッショナルコーチ2つの道

グローバル企業ではCEOや役員が外部のコーチを雇うなど外部のプロフェッショナルコーチを起用するだけではなく、社内に「コーチング部門」を設置するケースもあります。独立自営のコーチとして活躍するほか、所属する組織でコーチ専業となる人、主たる業務をコーチングとしている人もいるのです。

最近、副業を認める企業が増えてきているので、昼間は社内コーチとして仕事をしつつ、夕方以降や週末に外部のクライアントに対してコーチングを提供する、といった可能性も広がってくるでしょう。MBCCのトレーナーや修了生のなかには、すでに珍しくありません。

大きな組織でなくても、職場の一員としてコーチングに従事する(まだ日本では専業者は少ないですが)ことは、企業にとってメリットが大きいでしょう。給与以外の付加的な費用をかけずに、継続的なコーチングサービスを従業員に提供できるのですから。

一方、「社内の目を気にせず、客観的な立場で話を聴いてもらえる人にコーチングを受けたい」というニーズが多いのも事実です。

MBCCでは、目的と状況によって社内と社外のコーチを使い分けることや、一つのプロジェクトにおいて組み合わせることも提案しています。そうしたプロジェクトに数多く取り組んできたコーチ陣が、みなさんのこれからのコーチとしての活動を支援していきます。

何が“プロ”としての証明になるか

2年に1回、開催されるICFのグローバルカンファレンス。2019年「CONVERGE 2019」はプラハで開催され、MBCCコーチ、トレーナが参加いたしました。

世界最大のビジネスSNSであるLinkedInでコーチングの専門性を持った人を探してみると、コーチングの経験を説明する箇所に、“ACC”、”PCC“、”MCC“といった表記がみつかるはずです。 これはその人が国際コーチング連盟(以下ICF)の認定を持っていることを示しています。

コーチングは行政による事業の認可や国家資格が必要ないビジネスのため、ICFのような非営利組織などの認定は、プロとして仕事をするうえで必須ではありません。基本的に「コーチ」と名乗ることに制約はなく、非常に参入障壁の低い分野です。

これは日本だけではなく世界共通の特徴です。しかし、だから誰もが簡単に成功するわけではなく、むしろ間口は広いけれど成功するのは容易ではない仕事です。

プロとしての仕事に“お上のお墨付き”がないぶん、信頼を獲得するには自助努力が必要です。その自助努力の成果を公正かつ中立的に評価し、継続的な学習を支援するプラットフォームとなっているのが、MBCCが学習プログラム提供団体として参画しているICFです。

「ICFの認定をもっていること」は、プロとしての入り口にすぎません。ICFは認定保有者が「継続的に学びつづけていること」を、職業倫理にも明記しています。そこでMBCCでは、修了生と共に学ぶコミュニティ運営を重視しています。
※ICFの認定は継続学習による更新が義務づけられています。

認定の価値を自ら体現するコーチの育成

MBCCではICFが掲げるコーチングのスタンダードに沿った認定を、「自動車を運転するための免許証」に近いものと位置付けています。もちろん前述したとおり、運転免許のような法律で義務付けられたライセンス(免許)とは異なります。しかし運転免許が「安全に路上で車を運転する基本能力」を証明するように、「クライアントが望む成果と学習に貢献するための基本能力」を証明するものだという意味です。

これは「必要最低限の証明」です。同じ運転免許証を持つ人でも、初心者からF1ドライバークラスまで、スキルのレベルはさまざまです。私たちMBCCはICFのスタンダードに準拠しつつ、さらに高い独自の基準を設けています。また別の言い方をすれば、ICFの基準を「より厳密に運用する」ということです。

認定によってプロとして“証明してもらう”のではなく、MBCCの修了生であるコーチが、それぞれの仕事を通して、“結果的に認定の価値を証明する”。それがMBCCの目指すプロフェッショナルの姿です。

プロコーチもMBCCで学んでいる

MBCCの受講生のなかには、既にコーチとして活動している人もいます。ICFの認定を持っている人もいます。その理由はさまざまだと思いますが、共通しているのは「自分が身につけてきたコーチングのアプローチをさらに磨くための基盤をつくることができる」から。

“マインドフルネス=明晰な気づき”を基盤とするMBCCの大きな特徴は、コーチ自身の身体・心・頭を、観察しつづけることにあります。 プロとして仕事をしていると(コーチングという専門領域にかぎらず)、自分の流儀やパターンができてきます。それが完成度の高いメソッドだと、いつしか一つ考え方や手法に対する万能感が芽生えがちです。その万能感や慣れ親しんだアプローチを「選択する(したくなる)自分」に気づくことが、コーチングの限界を超える鍵であるとMBCCは考えています。

ほんらい適切な方法とは、相手が直面している状況や目的によって異なります。これを方法の原理と呼びます。(西條剛央 科学基礎論研究 VQL40,N.2 (2013)37~58)

コーチングでもセラピーでも、あるいはティーチングやコンサルティングでも、対人支援において専門家が「得意な手法」「自分の信念に合致した方法論」にとらわれると、コーチのパフォーマンスとクライアントの主題に乖離が起きてきます。

MBCCではマインドフルネスを通して、コーチが自分自身を洞察する能力を養い、それを習慣化させていきます。コーチングの場面でも、クライアントに向ける注意とコーチ自身に向ける注意を両立させ、その場で起きることを大切に扱います。

それが既にプロとして身につけているスキルを効果的に発揮する基盤となり、その人の持ち味に沿ったマインドフルコーチングへと統合されていきます。

はじめてコーチングを学ぶ人とプロコーチが、
ともに“ビギナーズマインド=初心の眼”で学ぶことのできるのがMBCC。
一緒に100年後の世界に遺すコーチングを探究していきましょう。